特別国語 今年度、3年生は 福音舘書店発行の『三コ』(斉藤隆介 作 滝平二郎 挿絵)を読み始めました。
 しばらく店頭から姿を消していた時があったのですが、3年生全員、2011年3月5日第三十四刷のものを手にしました。

 「三コ」は心惹かれる作品の一つです。絵本の巻末に作者の言葉が載っています。「私の代表作といえば、「八郎」だが、「八郎」に次ぐものといえば「三コ」だと思っている。「八郎」は数時間で一気に書かれて以後絶対に直せない。「三コ」は十数年前に書かれ、十数年間に十数回書き直した。もう直せない。」

 選びぬかれた言葉と構成が伝えるスケールの大きな創作民話を楽しんで欲しいのです。部分的にでも、「群読」形式で表現読みの体験ができたらいいなと、考えています。

 34年前、5年生の担任だった私は、「三コ」を軸にして総合学習を組み立てたことがあります。当時はクラス単位での学習発表会でした。「樹の詩をよむ」「民話の形をとった作品を味わう」「社会科・日本の林業の学習」「発音と発声の練習」「音楽効果と舞台」。学習発表はクラス全員の「シュプレヒコール」という形を取りました。児童はそれぞれの部門で熱心に取り組みました。発音・発声と朗読については、アンミリアムのハードな特訓にも耐えました。音楽と舞台設定は担当者だけでやってのけたのです。ある部分は担当者がピアノを弾いた音楽の選定も完璧、スライドとセロファンを利用した山火事の状景、走る三コ、それは見事でした。

 当日、舞台の袖の、悪条件の下で、私は使いふるした小さなテープレコーダーで彼らの声を録音しました。何人かが、その録音テープをダビングして持っていきましたが、最後の一つのテープを持っていてくれた一人のお陰で、34年目に手許に帰ってきたのです。懐かしい声でした。でも、雑音のすさまじさを何とかできないものかと、女学院の山岡先生にお願いしてみました。山岡先生は、かなり聞きやすくしてくださって,CDに入れ、何枚もコピーを造ってくださいました。最近、偶然出会ったかつての5年生の何人かが、そのテープを聴いています。

 彼らは立派な社会人となりました。それぞれの分野で活躍しています。そして、今年の3年生の中に、あの時の5年生のお子さんがひとりいて、「三コ」の朗読に声を響かせています。

 作者が、命を注いで完成させた「作品」が世代を超えて、豊かによみ継がれていきます。

シスターアンミリアム木村