友のためにいのちを捨てるほど
大きな愛はない

 

ノートルダム学院小学校 校長
シスターベアトリス 田中範子

 新しい年を迎え、2011年を希望のうちに歩み始めました。沢山の方々から戴いた年賀状の多くに様々な兎の絵がありましたが、その殆どはかわいらしい、あたたかい感じのものでした。今年の干支に当たっている人は全国で何人くらいなのかはわかりませんが、とにかくうさぎは清潔感があります。真っ白でふわっとしたやわらかい毛の小さなうさぎなら、誰でも抱いてみたい気になるでしょう。うさぎはそんなイメージを与えてくれます。

 年が明けてまもない頃に低学年の廊下を歩いていますと、よく聞かれる質問があります。
  “コウチョウセンセイはナニドシ ?”と。私はそんなとき、澄ました顔をして、
  “シスターは ネコどし よ”とか“ライオン よ”と言うことにしています。子どもたちはそれ以上聞き返しもしませんし、疑うこともしません。けれども、翌日が大変です。
  “コウチョウセンセイ ママが・・”ということでばれてしまうのです。
 とにかく、うさぎ年の今年は、まわりの人に心優しく、あたたかい気持ちで接していきたいと思いも新たにしているところです。

 うさぎに関する絵ものがたりはきっと沢山あると思いますが、私にとって最も心に残るお話は「月へいったうさぎ」です。それには訳があるのです。私が子どもの頃は、お月見のころに、必ずと言っていいほど目にしたのが、すすきとうさぎの絵とか、お月さまの中でうさぎが餅つきをしている絵とかでした。アポロが月面着陸して以来、月の中にうさぎの絵を描くということは園児の間でもなくなりましたが、何故、「月とうさぎ」なのかとずっと疑問に思っていました。成人してアメリカの小学校を訪問した時に、“なぜ、月の中にうさぎがいるの”と聞かれ、あらためて調べてみることにしたのです。それで出会ったのがこの絵本なのです。
 物語の内容をご存知ない方のために、簡単に紹介しておきますと次のようなものです。

 むかし、森の中に小さな動物たちが住んでいて、彼らはいつか生まれ変われる時には人間になりたいと願っていました。そのためには人間によいことをするとよいそうだ、ということになります。ある日、森の中に倒れているとしとった旅人を見つけ、動物達はクスリや食べ物を運んできてはお世話をします。老人はだんだん元気になり、食欲も出てきます。森の小さな動物たちは毎日森の奥のほうまで行って木の実や果物をとってきます。また川にもぐって魚もとってきました。けれどもうさぎだけは何も獲物をもって帰ることが出来ませんでした。みんなに責められたうさぎはたくさんのたきぎを背負って帰ってきます。そして焚き火のなかにそれを積み上げ、燃え上がる火のなかに飛び込んで叫ぶのです。“何もごちそうすることができないので自分のからだをおなかいっぱいになるまでたべてください”と。そのとき、としとった旅人がいつのまにかおしゃかさまのすがたに変わっているのに気づくのです。おしゃかさまは自分のいのちを惜しまずささげたうさぎを憐れんで、月の世界に導いていきます。死んだうさぎは永遠に月の中で生き続けます。

 このお話は多分、インドや中国の影響もあるのでしょうが、どこか、キリストの十字架上のいけにえを思い起こさせます。“友のためにいのちを捨てるほど大きな愛はない”と書かれている聖書のことばと重なります。本校の図書室にも、この絵本は置かれています。
  「月へいったうさぎ」(佼成出版社 谷 真介・文 赤坂 三好・絵)
今年はうさぎについて調べたり、うさぎが主人公になって登場する物語を可能な限り読んだりしてみたいと思います。