勇気ある自立

 

ノートルダム学院小学校 校長
シスターベアトリス 田中 範子

 ”母子家庭でも御校を受験出来るのでしょうか”という質問がきっかけで、あらためて親の役割について考えるこの頃です。そんな理由で本校の入学考査の合否が決まる筈がないのに、入学考査が近づくと毎年何件かそのような問い合わせがあります。ある時など入学考査の面接時だけ二人揃われ、終了後にはそれぞれが別々の方向に帰って行かれるというケースもありました。願わくはそのような偽装夫婦になることなく、母子・または父子家庭であることを肯定的に受け留め、前向きに生きて行って欲しいといつも強く願っています。
 要はいかなる姿勢で子育てをしているかが問われるのであって、両親が揃っているかどうかは二の次のことのように思われます。
 親の考え方・生き方は決定的な影響を子どもに与えます。特に、就学前教育は生涯に及ぶ結果をもたらします。昔と違って子どもの数が極端に少ない今の社会では、子どもを守り過ぎ、可愛がり過ぎて、あらゆる障害物を子どもの前から取り除き、子どもが自分で考え判断して障害物を乗り越えようとする力をもぎ取っている様な気がします。まるで親のペットのようであってほしいと願っているのではないかと疑いたくなるような光景を見ることもあります。子どもの要求を何でも満たすのが良いとは誰も思っていません。けれどもいかに多くの親が子どもの要求を聞き入れ過ぎて子どもを駄目にしていることでしょう。

 両親が共に若々しく健康で、経済的にも文化的にも十分幸せな家庭を営んでおられるのなら、それはそれで結構なことです。けれども、人はいつまでも若く元気でいられる訳がありませんし、願い通りの生活が送れる筈もありません。大人なら誰でも思い通りにならないのが人生だということを知っています。逆に、出来ることなら避けたいと思う十字架を担うことが、実際にはどれ程多くあるかということも知っています。父子家庭か母子家庭かが問題なのではなく、子どもが親にどれだけ丁寧に扱われ、大切にされ、そして親に受け入れられ、認められていると感じているかどうかが問題なのです。

 親離れよりも子離れが先です。子どもが幼い頃に、特に就学前に、人間としてしなくてはならないこと、またしてはいけないことを徹底的に教え込むことができる強い親であって欲しいと思うのです。子どもに自立を促す前にまず、親が成熟した大人として自立することが先決だと考えますが、これは厳しすぎる要求でしょうか。

2006年度前期「父母の会会報」150号掲載
(2006年9月29日発行)