「憧れる心」は子どもを育てる

~昨年のクリスマスタブローより~

 

ノートルダム学院小学校 校長
シスターベアトリス 田中範子

 待降節も近づいた或る日の宗教の時間、タブローの配役を決めることになりました。6年生の担当は三人の王様と付き人、マリアとヨゼフだけです。何年か前は6年生のなり手が少なく、仕方なく5年生から選んだりしたこともあったようですが、このところ、6年生の出演希望者が多く、嬉しい悲鳴を上げています。
 去年もマリアさまになりたい子どもが多く、担任による推薦の後、背の高さやじゃんけんで決めようとしたのですが、じゃんけんで最後まで勝ち抜いた二人は、二人ともがどうしてもマリアの役をしたい、というので遂に一人のヨゼフと二人のマリアでタブローをすることになったのです。それどころか、王様や付き人になりたい子どもも多いので、来年からは二組分の衣装を余分に準備したいと思っているところです。 
 今年は王様や付き人以外に、ヨゼフの役を希望する男の子が何人もあり、選ぶのにほんとうに苦労しました。廊下を走らないこと、登下校の態度をよくすること、宿題を必ずやってくること、先生の教えをよく聞いて実行すること等を特別に約束させたり決意表明メモを書かせたりしながら人数をしぼってきました。
ようやくみんな納得して、最後に残った一人がヨゼフに選ばれたのです。
 彼はどんなに喜んだことでしょう。マリアの役をする二人の女子よりも背が低いのですが、そんなことは全く気にしていないように見えました。そして、決意表明用紙には、次のように書かれていました。

「ぼくはクリスマスタブローのヨゼフ様の役を是非したいと思います。ぼくは、学校に入学する前、初めて学校のクリスマスタブローを見た時、とてもすごいなと思ったので6年生になったら絶対、役をしたいと思っていました。ろうかも走らず、きちんとした態度で何事にもとりくむので、ぼくもヨセフ様の役をさせて下さい。お願いします。」

 驚きました。また、その純粋さに心を打たれました。ですから、放課後の練習にも欠かさず来ていましたし、当日はお母様もご覧になり、本当に感謝しておられました。数日後に頂いたお手紙をここにご紹介いたします。

「先日はクリスマスタブローでヨゼフ様という大役をお与え下さり感謝しております。子どもが入学前に見学させて頂き“いつか僕もあの舞台で・・”と夢見ておりましたのでお役のお許しを頂いた日の子どもの笑顔は忘れることが出来ません。身体の小さなヨゼフ様でマリア様と釣り合わない事を気にしてずっと背伸びをして本番に臨んでいる姿を見て感謝で胸が一杯になりました。本当にありがとうございました。NDでの数え切れない思い出と、また他校では有り得ない高いレベルの教育で付けて頂いた学習力、培って頂いた精神力を糧に、年明けの受験に臨みます。次は中学のタブローの舞台に立てる日を夢見て頑張っております。」

 自分が何をしたいのかわからない若者が多いと言われるこの頃ですが、子どもの頃から、将来への夢を持って生きられる子どもは幸せだと思います。また、子どもに寄り添って歩み、その夢の実現に協力する親はもっと立派だと思います。
 憧れは人を育てる、と言えるのではないでしょうか。より高いもの、より深いもの、より美しいものへ憧れる心を、これからも子どもたちの心に育てていきたいと願うのです。