ノートルダム授業公開研究会 2008 」開催にあたっての学校長のご挨拶を掲載いたします。
 

「感動体験が人を育てる」



ノートルダム学院小学校 校長
シスターベアトリス 田中範子

 
 いよいよ、平成23年度から新しい指導要領が実施されます。ゆとり教育の見直しということで、理数系に大幅な時間数増加が決められています。これは学力調査(OECD・学力到達度調査や、全国学力・学習状況調査)の結果を踏まえてのことです。約30年間続いた「減らす改訂」から「増やす改訂」に転じましたので、どこの学校も教科によっては異なるとはいえ、移行措置期間のことでご苦労があるのではないかと思います。
 学校教育の中で確かな学力を保証するために、教科ごとにポイントが示されています。私たち学校教育の責任の一端を担う者は、子どもたちが変化の激しい今の時代に、バランスのとれた人間として生きていくために必要な能力を、養い育てる使命を負っていると考えています。
そのために特に道徳教育が重視されていますが、それを教科にするかどうかが問題なのではなく、心の教育を重視するかどうかが問題なのだと思います。発達段階別の指導としては小学校低学年では「あいさつ」、中学年では「集団や社会のきまり」、高学年では「相手の立場の理解」などが重点に上げられています。
 これらの指導の根底に、命の尊さとか生きることの意味とかを伝えたい、という教師側の熱い願いがなければ、子どもは、単に知識の段階に留まります。自分がかけがえのない存在であること、そして、お友だちも周りの人も、からだの不自由な人も、病気の人も、みんな自分と同じ大切な存在であること、誰も人として大切に扱われないといけない存在だということが、体験的にわかる必要があります。頭での理解にとどまらず、心に深く浸みこんで行けば、人に限らず、目の前の机も椅子も、草も石も、水も空気も、存在する全てのものをいとおしむ心が自然に育ってくるのではないでしょうか。
今の時代、簡単に人を傷つけ、殺してしまう若者のニュースに接するたびに、これまでの教育に何か欠陥があるように思えてなりません。せめて、小学校時代の子どもたちに、命ある全てのものを慈しむ心を植えつけたいものです。その種を蒔く仕事は私たち教師の務めではないでしょうか。目にしたもの、耳にしたもの、手にしたものに驚き、感動する体験をひとつでも、多く、子どもたちに与えることは出来ないものでしょうか。

 新指導要領には学習内容としてはそれ程新しいことが増えているわけではありませんが、時間数としては、小学校に入学してから卒業までに約300時間も増えるのですから、子どもが感動を覚えるような授業が組み立てられるよう創意工夫する必要があります。また、基礎・基本の知識については学び漏れが生じないように、繰り返し繰り返し、手を替え、品を替え、子どもに確かな学力をつけていかなければなりません。それは単なる暗記ではなく、応用力となって生きて働く力になることを願って・・。やがて、社会に出たときに役立つ力になることを願って・・・。
 国内外の学力調査の結果、子どもの思考力や表現力が今一つと言われているのですから、コミュニケーションの基盤となる言語活動を重視し、国語だけでなく、算数や他の芸術教科を通してでも、意図的にその力をつけていくことが大切です。

 以上のことを踏まえ、本校ではどの教科も、基礎・基本を重視しながらも指導要領は最低基準であることを忘れず、「感じる心・考える力」を子どもにつけることを目標に、各研究部が取り組みましたことを発表させていただきます。
私は、子どもには詰め込みもゆとりも両方が必要だと考えます。子どもが時間の過ぎるのも忘れるほどに授業に集中するようであってほしい。そんな授業がひとつでも多く生み出せる教師力をもつ教師集団であってほしい。そんな願いをこめて今年も公開授業研究会に踏み切りました。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
 
2008年12月