ゴールデン・ウィークが終わったある日、3年生のモーツァルトが待ちに待っていた「ソプラノ・リコーダー」が届きました。それまでは、3年生の教室の前を通る度に「先生、リコーダーまだ?」「先生、リコーダーもう来た?」「先生!リコーダーいつ来るの?」と、質問責めの毎日でした。 ついにリコーダーが届いた日、(私の顔に何か書いてあったのでしょうか・・・)、モーツァルトは、廊下を通りかかった私の顔をじっと見ながら、何やら断定的に「先生!来たんでしょう?」と攻め寄って来ました。私がその迫力に押されて、ついニカッと笑ってVサインをすると、モーツァルトは突然「来タァーッ!」と大喜び。よほど嬉しかったのでしょうねえ。 

 「モーツァルト君、新しい楽器で早速何か聴かせてくれるかな?」
 「お安い御用だと言いたいところだけど、まだソ・ラ・シの音しか吹けないんだ・・・・」
 「大丈夫だよ、モーツァルト君。君だったら、たった3つの音だけでもきっとすばらしい音楽が作れるよ。」
 「でも、たった3つじゃぁねぇ・・・そうだ!先生、リコーダーをもう少し吹けるようになったら、先生に曲をプレゼントしてあげるからね!」

 自分がリコーダーを初めて手にした遠い日の記憶を手繰り寄せながら、今日も笑顔で手を振りふり北山通りを帰っていくモーツァルトの後ろ姿を見送るのでした。

 音楽科  寺下 徹