テーマ:今年度の取組について
● 研究にあたって
国語部 研究主題 「対話力」を育む国語教育のあり方
「聞く」から「聴く」へ~対話を楽しむ授業をめざして~

● 2年『お手紙』

国語科: 鎌田 裕子

国語科における対話とは

 国語科授業において、友達との意見の交流、対話は、児童が自分の意見・理由を確かめ、広げ、深める上で大変重要な位置を占めています。
 その交流、対話を成功させる条件としては、まず、児童が「友達と交流、対話をしたいと思う」という必然性が求められます。その必然性は、学習課題が児童にとって興味をそそられるものであることと、その交流、対話が、確かに学習を進める上では必要であると児童が感じられるような場の設定によって実現しやすくなります。交流、対話を成功させる二つ目の条件は、交流、対話を行う前に自分自身の意見・理由を自分なりに持っていることです。単に交流、対話さえすれば力が付くというわけではありません。自分の意見・理由があってこそ、児童は「自分はこう読んでいるけどAさんは・・・」「自分の意見と理由はこうだけど、Bさんの理由は・・・」と、相手と自分の意見・理由を比べ、その良さに気付きやすくなります。自らの意見・理由があってこそ、相手との交流、対話は生き生きとしたもの、学びのあるものになるというわけです。そして、多くの友達の意見・理由に出会うことを通して、自らの意見・理由も含めて、出会った意見・理由の中から自分が一番学び甲斐がある意見・理由を決めることもできるようになります。それが、相手の意見・理由を受け入れ、理解し、評価し、自分のものにする学びということです。中でも、評価を行うことが大切です。交流、対話のやりっ放しは、子どもたちの真剣に学び合う姿勢を壊します。交流、対話は、必要だから、する価値があるからするわけです。そのことを子どもたちが実感できる瞬間は、友達の素晴らしい意見・理由に出会ったり、自分が学びたい意見・理由に出会えたりした時です。学校という学びの共同体の中で、いろいろな人の意見・理由を聞いた後、自分の意見・理由をよしとするか、それとも、相手の意見・理由から学ぶのかということを私は常に大切にしています。そうしてこそ、交流、対話は、児童にとって必要なものとなるからです。
 また、意見だけでは、人から理解や、支持を得られるとは限りません。それは、論理的でないから、人に伝わらないのです。論理は、意見だけでは成り立ちません。その意見を立てる理由があってこそ、質問も起き、議論も起き、その他者の反応を見て、他者を納得させる力を子どもたちも考え出すというものです。ですから、私は、常日頃から「意見・理由【根拠】」をセットで述べ、セットで聞くよう躾けています。それが、将来の児童の論理的思考力、論理的説得力の向上につながると信じて、心がけています。

 今回の大研ではアーノルド・ローベルの『お手紙』を教材に授業を行いました。
まず、『お手紙』全文を読み、感想を話し合い、おもしろいな、不思議だなと思ったことをもとに、学習課題を決めました。児童の初発の感想から5つの謎を選び、授業の中でその学習課題を一つひとつ解決していきました。

 本時の授業では「なぜ、かえるくんはがまくんにお手紙のことを教えてしまったのか」ということについて考えました。がまくんにお手紙を書いて喜ばせようと秘密でかたつむりくんに手紙をたくしたのに・・・なぜ、自分がお手紙出したことを言っちゃったのか、これは、児童にとって大きな、大きな謎でした。そんな大きな謎だからこそ、考えたくなるのです。「なぜ…」と聞かれるから考えようという頭のスイッチも入りやすくなるのです。これをまず一人学びで考えます。本文をもとに自分の意見と理由を書き、書けた人同士で交流を始めます。ここでは、自分の意見・理由を言う。友達の意見・理由をしっかり聞くという対話の基礎力を付けることをねらいにしています。
 次は、みんな学びです。クラス全体で自分の意見・理由を発表しました。2年7組では、一人学びで自分の意見・理由が早くできた人は、できた人同士でお互いの意見・理由を読み合います。時間は有効に。交流、対話をするなら、5人よりも10人、10人よりも15人、できるなら全員の意見・理由に触れさせたいというのが私の希望です。ただ、ひたすらお互いの意見・理由を読みます。余計なコメントは言いません。まだ、机で頑張って意見・理由を書いている友達もいるわけですから。そして、みんな学びでは、発表者の意見・理由と自分の意見・理由を聞き比べ、学びたい意見・理由を探し、友達の意見・理由に学んで自分の意見・理由を深めます。
 日頃、クラスでは、ハンドサインを使っており、児童は友達の意見・理由を聞きながら「賛成!」「なるほど!」「違う意見」「つけたし」など自分たちが作ったサインを送りながら、話し合いを深めていきました。「つけたして言いますが・・・」「それはちがうんじゃないですか・・・」などいろいろな意見・理由がとび出します。声の小さい友達にはクラスみんなが意見を聞けるようにと、大きな声で伝える友達が出てきます。教室のどの子もが主体的に活動できる授業をめざしてこれからも研究を深めていきたいと思います。

● 3年『ちいちゃんのかげおくり』・・叙述にそった読みをしよう

国語科: 本木 千紗子

授業で目指しているもの

 国語科では、聞く力を土台に共感しあいながら伝えあう対話力の育成を目指しています。
児童が授業の中で行う対話は、作品との対話、自分との対話、仲間との対話の3つがあります。作品との対話では、教材文の叙述に即して、登場人物の気持ちや状況を把握する力を養っていきます。また自己との対話では、作品に出会うことにより登場人物に共感しつつも、自分との境遇の違いや感じ方を比較し、読者として作品を味わう力を養っていきます。また、最後の仲間との対話では、自分の考えを仲間に明確に伝え、友達の意見も聞きながら交流する中で、自分の考えが深まったり、新たな視点が生まれるという充実感を児童が持ったりすることを目指しています。そして、授業で養った力が授業内にとどまらず授業を超えて生活に生かされるものであること、対話を通して子どもたちが充実感を持ち「対話って面白い」と感じられることという二つの目標を大切にして、研究を進めています。

 今回扱う教材は、あまんきみこさんの『ちいちゃんのかげおくり』という快晴の空の下でする遊びを題材とした、児童が小学校国語で初めて出会う「戦争」を扱った文学作品です。3年生の子どもたちにとって、「戦争」を理解することはとても難しいことですが、学習後、「単に「戦争って怖いね。今は戦争がなくてよかったね。」と自分の現実生活と遠くかけ離れた感想でなく、自分たちよりも幼いちいちゃんを通して、毎日当たり前と思って一緒にすごしている家族との幸せな生活を奪うものが「戦争」であること、また、「戦争」の中で、孤独と空腹に耐えながらも家族に会いたい、家族と一緒にいたいという願いを持ち続けたちいちゃんの、人間の強さにも迫ることで、「戦争」を知ってほしいと考えました。

今回の授業で大切にしたこと

 『ちいちゃんのかげおくり』は私自身も小学校時代に学習した、思い入れのある作品です。「本当にかげおくりってできるのかな。」と、友達といっしょに手をつないで運動場や帰り道にかげおくりをした記憶も残っています。作品については、かわいそうなお話であったことは覚えていました。そこで、教える準備段階として夏休みぐらいから作品について学習し、児童に身につけてほしい力と、話し合ってほしいことは何かを考えていきました。
 『ちいちゃんのかげおくり』は、ちいちゃんが幼い女の子であり、家族とのかかわりを中心として書かれていることから、児童にとって主人公の気持ちを読み取りやすい作品です。主人公である幼いちいちゃんの思いや、戦争に巻き込まれる中でも最後まで持ち続けた家族に会いたいという願いをしっかりと理解させたいと考えました。同時に、ちいちゃんが幼かったがゆえに、つたない表現力では周囲の大人に状況が伝わらず、焼け落ちた防空壕で幼い命を落としてしまうという結末は、悲しいものです。このことから、単元を通して、ちいちゃんの気持ちに寄り添った読み(内の目)と読者としての読み(外の目)の2つの視点を児童が意識して使い分けをし、考えていくことで、ちいちゃんを取り巻く状況の悲しさ、家族に会いたいという純粋な願いを持ち続ける人間としての強さと戦争の無情さを感じ取ってもらいたいと考えました。なお、この(内の目、外の目)という読みの手法は、文芸教育研究で有名な西郷竹彦さんの視点人物の考え方を参考にしています。

研究授業の流れ

 今回、小研究授業という形で、他の先生方に見ていただいた場面は、『ちいちゃんのかげおくり』の第4場面、崩れかかった防空壕で家族の帰りをひとり待っていたちいちゃんが、もうろうとした意識の中で、家族との思い出のかげおくりをし、幻想の中で、家族と再会する場面です。ここでは、第1場面の家族みんなで笑顔でしたかげおくりと、この第4場面のひとりぼっちでのかげおくりを対比することで、かげおくりの意味を問うこと、また、ひとりぼっちでかげおくりをするちいちゃん自身は、やっと家族に再会できたという喜びでみちあふれています。(内の目)が、読者の立場からすると、そのちいちゃんに共感し「よかったね」という気持ちと、幻想の中でしか家族に会うことができなかった、そして死をむかえるちいちゃんへの「かわいそう」という気持ち(外の目)の2つを感じ取らせたいと考えました。授業を進めていく中で、「ちいちゃんは幸せだったのか」という2つ目の発問をし、隣の席の子とペアで対話をする機会を持ちました。児童は、ここまでずっと読みを深めてきていたので、それぞれに自分の思いを持ち、意見を交流できました。また、ちいちゃんに「よくがんばったね」とほめてあげたいというような、様々な意見が聞かれました。その後、「今日のまとめ」として今回学習した内容をノートにまとめました。
 次の授業では、もう一度、それぞれの深めた考えを発表しあう予定です。

まとめ(事後研、研修)

 学習後には、「ちいちゃんのかげおくりを勉強して、テレビで見るよりも、戦争が怖いものだということが分かりました。」という感想を書いた子がいました。その子にとっては、どんな映像よりも文学作品を通して、登場人物の心情を味わうことで、本当は体験することのできない戦争という経験を感じ取ることができていた一つの証と感じています。また、「今の自分は恵まれているんだなぁ。ちいちゃんの分も頑張っていきたい。」という感想もありました。
 また、ノートルダム学院小学校では中学年まで毎日音読の宿題を出しているのですが、今回の作品は、音読の宿題を出すと「家で音読したら、お母さんが泣いてはった。」という声が聞かれることもありました。授業の中だけでなく、お家の方のそのような反応も児童にとって主人公の心情に迫り、考えを深めるきっかけとなっていると思います。ご家庭での教育活動へのご協力も子ども達の大きな力となっています。

<NDトピックス> 音読発表会

今年度より朝礼集会で音読発表をすることになりました。題材は、子ども達の発達に応じた作品を中心に、国語科で学習した教材、音読集などから、子ども達が意欲的に発表できるものや、能力を発揮できるものを朗読します。今年度2年生では、4クラスを春夏秋冬などのグループに分けて詩を音読したり、「お手紙」朗読をしたりしました。聞く児童も静かに発表を聞き、大きな拍手をしています。日々の音読練習を全校児童の前で発表する機会を設けることで、子ども達の自信につながればと願っています。

国語科:三田 暁美