図画工作科 田中 聖子
今尾 栄仁
森岡 厚次
岡田 攝子

本校では、毎春学校から徒歩10分の場所にある 、京都府立植物園での写生会をおこなっています。  

 そのねらいは、以下の通りです。

                       ・自然の美しさに関心をよせる。

                       ・自然やものと向かい合いよく見て、粘り強く表現活動を楽しむ。

 

また、学年の発達段階や経験を踏まえ学年ごとにテーマを設定しています。

各学年のテーマ

1年「はるのしょくぶつえん」

2年「花と○○」

3年「木と○○」

4年「樹」

5年「森」

6年「自由」

 

テーマ設定理由

1年生 初めての写生会に行く1年生。実際に様々な自然に触れる中で、心を動かされたことを思い思いに表現できるよう、描くモチーフを自由に選ぶ。

2年生 色とりどりの花々に目を向け、色彩豊かに描く楽しさを味わう。

3年生 木を取り入れ、描く対象物を大きくすることで、目の前のものから全体へと視野を広げ、より大きく世界を捉える。

4年生 自分が描きたいと思う一本の「樹」を選ぶことで描く対象を絞り、その対象とより深く向き合って描く喜びを味わう。

5年生 木々の重なりを描くことで、平面上で空間や遠近を表現することに挑戦。

6年生 テーマは自由だが、立体的な表現に興味を持つこの時期、人工物を画面に取り入れる。

 

 

写生会の朝、テレビ放送にて全学年に写生をするために一番大切なことを一つだけ伝えます。

それは、「よく見ること」です。目の前にある植物一つひとつの形や色にじっくり目を向けて描くことなのです。

   

1日かけて植物園で写生会を行った後、図画工作の授業で仕上げを行っていきます。朝や放課後も仕上げをする児童もいます。

 

次に、具体的に各学年の写生会と仕上げの取り組みを紹介します。

 

1年生「はるのしょくぶつえん」

春の暖かな気候の下、陽光きらめく噴水や鮮やかな花々、友達や虫たちに囲まれたその雰囲気の中で子どもたち一人一人が生き生きと描くことを楽しめることに主眼をおいた指導、言葉がけを行っています。みんなの顔が一人一人違うように花たちも一つ一つ違う表情があること、たくさんの草、木、花が楽しい雰囲気を作ってくれていること、それらを育む土、空、水の美しさを子どもたちに話します。それらの色や形をしっかりとよくみて描き、粘り強く仕上げていくことの楽しさを味わうことができるようにクレパスでの描画着色指導を行います。

 

2年生「花と○○」

2年生は、「花と○○」というテーマで写生会に挑みました。春の植物園に生き生きと咲き誇る花と、自分が植物園で見つけたとびきりのものを一緒に描きます。主題となる花をしっかりと見て描くことと、ともに、その花を取り巻く楽しく明るい空間を描けるように声掛けをしながらテーマの「○○」を意識させました。

植物園という場所柄、花と噴水を描いていた児童も多かったです。ダイナミックな噴水の水しぶきが飛び散る様子、涼しげで動きのある絵となるように、水の色や空の色の違いなどを見て描くよう指導しました。

2年生は画材として、絵具とクレパスを使います。クレパスで大きく絵を描いた後に絵具で彩色していきました。写生会後の授業において、絵具で「色の研究」を行い、自分だけの色作りを楽しみながら、木や森、芝生の緑など鮮やかな花を引き立てる多彩な緑を描く児童が多くいました。2つの画材を使い、どの児童も集中して最後まで、そして楽しみながら描くことができました。

 

3年生「木と○○」

【当日の指導】

3年生は初めて鉛筆で下描き、そして絵の具での彩色となります。鉛筆で形をしっかりとらえること、できるだけ大きく描くことを指導します。全体が描けると次は、彩色に移ります。外での写生なのでパレットの使い方には配慮するように言います。たくさんの色を作ることができるようにパレットの大きな部分は分割して使用すること、混色で本物そっくりの色を作るように伝えます。学校での仕上げの際に、本物そっくりの色は、なかなか思い出してつくれるものではないので、現場にいる際にしっかり色づくりに励むように言います。現地で作った色は、学校での仕上げでも使用するため、パレットは洗わずに持ち帰らせています。

 

【仕上げの指導】

2年生まで使用していたクレパスはないため、絵の具だけでの仕上げとなります。ここで重要なことは、筆の使い方です。大・中・小の3種類の太さのものを色をおく面積に合わせて使い分けること、筆に含ませる水の量、絵の具の量、筆の持ち方を重点指導します。

また、どの学年でも伝えることとして、

・絵の上に絵の具一本たりとも置かない。 →絵のバランスを崩すから

・机の上に使いやすいように道具を広げる。

・時々は、遠くから絵を眺めてみる。→足りないところが見えてくる

大きくこの3点について意識させました。

 

4年生「樹」

4年生は植物園内を散策し、様々な樹と出会う中で描きたい樹を見つけ、その魅力にせまりじっくりと向き合いながら表現活動することを目当てとしています。

そのためには、しっかりと樹を観察し、枝の動きや葉っぱの形など、時には手で触れるなどし、視覚や触覚などの五感を働かせて感じ取るように指導を行いました。

まずは、好きな樹を選びスケールを用いてどのような構図にするのか、探っていきます。構図においては、事前に画用紙を用いてスケールを作らせ、構図を考える学習を行いました。スケールを使うことで、描きたい対象を画面いっぱいに捉えることができ、そして細部まで詳しく描くことができます。描くときには、実際に樹に触れて形の凹凸や質感を確認することや、じっくりと見つめながら色の変化を感じるなど、現地でしかできない体験に重きを置きながら、鉛筆で一つ一つ描いていきます。その後、図工の授業では、描いた樹の表情や色味など、記憶をたどりながら彩色し仕上げていきます。チューブの生の色だけを使用するのではなく、色の3原色の解説をすることで、混色し彩色することを促し、筆の使い方や水の含ませ方にも留意し指導を行っています。

写生会後には、自分で描いた作品について「あなたはどのような樹に魅力を感じそれを選んだのか?そして、その魅力とは何か?」といった設問をし、自身の表現活動に対しての言語化や自己内対話を通して振り返りを行っています。

 

5年生「森」

【当日の指導】

4年生では、お気に入りの木を一つ見つけ、それをメインに描いていきました。5年生では、その木が複数集まった「森」を描きます。5年生で重要な目当ては、「空間の認識」です。重なり合っている木々をどう描いていくか、構図が大切になってきます。木々の間から見える景色など描いた絵の中の空間にあるものを写生会当日に描いてくることで仕上げの進み方が変わります。絵の具の混色や重色など、色づくりより、形を描いてこなければ、仕上げでその空間、空間に色を置いていくことが難しくなります。現地では下描きに焦点をあてています。

 

【仕上げの指導】

それぞれ進度も異なるため、個別の指導が多くを占めます。特に、「空間の認識」は全員に共通して指導を行います。その指導法を何点か示します。

1.黒板で図として示す。木の太さに関係なく、根の位置で木の前後関係を理解する。

    

2 植物園の写真をテレビ画面で示す。立体である風景を平面の写真に置き換えて理解する。

    (提示する写真の例)

3 筒を使用する。(筒を木に見立てる)

正面からの視点 上からの視点 横からの視点

この3点の視点により、木と木の間には空間があることを認識しやすくなる。

 

このように、空間の認識を具体的に示すことで児童はそれぞれの絵の中で空間認識をし、意識をして描いていました。

 

 

6年生「自由」


テーマは自由としているが画面の中に何らかの構築物を入れることを条件としています。学年の特質として立体的な表現に興味を持つ子どもが多く見受けられます。事前学習として写生会前に立体を描く方法論とその実践、視点や角度の違いで描く形がちがうこと、画面に描く大きさの違いで同じ場所でも趣の違う画面ができることを、以前の6年生たちの描いた絵を参考に見ながら感じとれるよう授業を行います。写生会当日は、まず、思いを持って描くことができる場所選び、場所が決まれば集中して対象をよくみて鉛筆で形を描くことに重きをおくこと、その後、当日も含め、教室内での図工の授業での仕上げは各自のとらえた物の感じを絵の具で様々な工夫を行い表現します。ただ、工夫は一様ではない自ら考え選んでいくことが大事です。そのことが各自の作品のオリジナリティーとなり、魅力のある作品を生み出すことになります。ひいては心を磨く大切な活動となります。又、夏休み前には写生展を開催します。その時6年生は1年生の絵の魅力をレポートすることをテーマとした鑑賞授業を行っています。

 

最後に、、 

時間の流れが年々早くなる現代社会状況で、写生会は自然の中に身を置き、空気を感じ、ものをみる時間を持ち、自らじっくりと描く機会と捉えています。この活動を通して、児童の心を豊かに成長する糧となればと願います。