お正月気分ともそろそろ別れて、寅年を力強く歩み始める頃となりました。それでも一月いっぱいは「百人一首カルタ覚え」にチャレンジするようにと勧めています。大体5首から10首くらいを一回分にする子どもが殆どですが、一気に40首スラスラ言ってのけた一年生には脱帽です。意味が全く判っていないのに、よくもこんなに沢山の和歌を覚えることが出来るものだと感心しています。意味が全く判らないので、お経のように何度も繰り返して声に出して言っているうちに覚えてしまうのだと思います。
 ただ、上手に暗誦した子の後ろに並んでいた数人の一年生が怖気づいて、“校長先生 ぼくあしたにします・・・”と言って引き下がってしまったことがありました。また、“わたし十個だけ言います”と念を押してから聞かせてくれたケースもありました。
 一度に沢山の百人一首カルタを覚えてしまう子が何人も現れますと、その子らをほめることに心がとらわれてしまい、苦労してもなかなか覚えられない子どもへの配慮が足りない自分にふと気づくのです。
 過日、一階の廊下を歩いていますと、一年生の女の子が近づいて来て、蚊の鳴くような小さな弱々しい声で“こうちょうせんせい、わたし ひとつだけ いえるの・・”と言うのです。私の内心の返事は、「たったひとつ? こうちょうせんせい いま いそがしいの~」でしたが、顔ではにっこり笑って、「あら、そのひとつを きかせてくれる~?」とその子の背丈までしゃがみました。なんとその子は、大きなしっかりとした声で “あまつかぜェ~ くものかよいじふきとじよォ~ おとめのすがたァ~ しばしとどめん~” と朗々と詠めるではありませんか。このひとつが気に入っていたのでしょう。私は思わずその子を抱きしめて“上手に言えましたね。”と最大級の褒め言葉を返しました。
 自信のある歌はこんなにも力強く言えるものなのです。子どもは、人に認められ、ほめられてやる気が育ち、意欲的に取り組めるようになるのでしょう。たかが百人一首されど百人一首。

校長 シスターベアトリス 田中

<校長室を訪ね、覚えた短歌を披露する子ども達>