昔の小学生の問題に挑戦しよう!!

 

算数科 担当
太田 直樹

私の算数の授業では,子どもと先生,子どもと子どもが対話することを目指しています。それは,対話し合うことで,1人だけでは考えつかないような,数のきまりや規則,算数的な考え方を知ることができるからです。

 そのために最も必要なことは,子どもの算数的な「 つぶやき」をクラスに伝えてあげることだと考えています。1人だけで自力解決させるのではなく,クラスの中で話し合う時間を多くとることを意識しているのです。

 このように,私の算数の授業では,
「考えさせながら教える」 ことを目標としています。今回は, そのような授業の1つを紹介します。

 

 

 

「俵の数はいくつ?」  

 

 今回は,『尋常小学算術』という昭和10年より学年進行で使用された戦前の教科書から教材を選びました。

近年,この戦前の教科書が注目されています。ぜひ,ノートルダムの児童と一緒に考えたいと思い,実践してみました。

【引用・参考文献】
・塩野直道編,『尋常小学校算術第4学年下』復刻版,啓林館
・一瀬孝仁,「私の授業実践 面積(5年)」,全国算数授業研究会,『算数授業通信』第176号平成24年4月号,2012,P.726

 

【昔の教科書って?】

  

「  算数大好き直太朗。ある日倉庫を掃除していると,古い本を見つけました。

 

『これは何だろう?』

 

直太朗が見つけた本は,昔の4年生が使っていた

算数の教科書でした。」

これは,炭俵を積み重ねた図です。全体として,それぞれどんな形になっているでしょう。ま た,炭俵の数はそれぞれ何俵でしょう。

 

 

 

  【俵の形は?】

さぁ,問題は理解できました。

早速,1つ目の全体の形を考えます。

 

すると,やっぱり5年生。

昔の4年生には負けていられません。

ぱっと,手が挙がります。

 

「①の方は,台形だと思います」

「②の形は,正三角形です。」

 

…うんうん。…

 

子ども達の頷く様子が見られました。

 

すると,1人の子が不思議なことをつぶやきました。

 

でも,②は,台形にも見えるんじゃない?」  

*この発想は,のちのち生きてくる大切な考え方なのです。
   なので,わざととぼけました。

 

「え?どういうこと?」

 

「一番上を1つ分と考えたら,上底が1の台形になる。」

 

*この時は,まだ他の子も大事なことが分からないので, 

 「まぁ~そうも見えるかなぁ。」という反応です。

【俵の数を工夫して求めよう!】

 では,形が分かったので,俵の数を求め始めました。
 しばらく,自分なりに考えてから発表です。

 ただ,子ども達の 反応を見ていると,俵の数がすでに分かっているようだったので,先に数を確かめました。

「①の俵の数は25」

 なので,子ども達の考えは,どうやって求めるのかという考え方にうつりました。

 発表は,友達の方を見ながら,説明します。

(1)10個のかたまりに分けて,10+10+5=25

(2)順番にたして,3+4+5+6+7=25

(3)5個のかたまりを5個に分けて,5×5=25

 その説明の中で,平行四辺形に形を変えるという考え方が出てきました。

 すると,「右下の○を移動して,平行四辺形にすると,面積の求め方で,5×5=25になります。」

 周りの子ども達も,以前勉強したことを活用している良さを実感しています。

 

「では,その考え方で②を考えよう。」

というと,すぐに,

「でも,②はできないよ。①は偶然かもしれないけど,②の台形はできなかった。」

 いつの間にか,子ども達は,頭の中で,②の図形も三角形の面積のもとめ方で考えていました。

 「え?できないの?何で?」

 「だって,6×6÷2=18で,答えの21にならないから…。」

 

 「あっ! ということは,A君の考え方か。」

 そのつぶやきだけでは,全体の子ども達は,理解できません。

  そこで,説明を促しました。

「はじめに,A君が②の形は,台形にも見えるって言っていました。だから,台形だと思って,台形の面積の求め方を使うと,

 (1+6)×6÷2=21となって,求められます。」

 「あ~そういうことか。」

 「②は三角形じゃなくて,台形なんだ。」 

みんなが,少しずつ自分の考えをあらためて,

理解していきました。

 

 

 

 

 

【授業終わりの一コマ】

 

 

《NDトピックス》

『 伝説の算数教科書“緑表紙”―塩野直道の考えたこと 』


            参考:松宮哲夫,「伝説の算数教科書“緑表紙”-塩野直道の考えたこと」

 

  

伝説の算数教科書と呼ばれている教科書がありました。緑色の表紙だったので緑表紙教科書と呼ばれています。この教科書が,近年の算数教育で注目されています。それは,学習指導要領の改訂のキーワードとなっている「活用」を意図された問題が多数取り扱われているからです。

 

数学教育史の専門家である松宮哲夫の書かれた著書『伝説の算数教科書“緑表紙”-塩野直道の考えたこと』の内容紹介では,次のように書かれています。

 

算数は単に計算の習熟のためだけにあるのでなく、数の概念や演算がどのように生まれてくるかを日常生活と結びつけて理解できるように工夫された画期的な内容。こんな教科書が驚くことに戦前に使われていた。編纂にあたった塩野直道の思いと併せ、教科書や算数教育のあり方を問う。」   

 

 

算数教育では,計算の習熟だけではなく,その演算の意味,自分の知っていることを活用する考え方,数学的な考え方などを育てることが必要であることをあらためて感じます。本校の算数教育も,計算・文章題の習熟を土台として,子ども達の算数的な考え方をさらに高める教育を考えていきたいと思います。