私の祖母は、大正末から昭和初期にかけて女学校の教師をしていました。洋裁が好きで、母はもちろん私たち姉弟の洋服はいつも祖母のお手製でした。軽快なミシンの音、思うままにデザインした落書きのような絵が洋服になっていくうれしさは私の心奥に今も鮮やかに残っています。祖母が他界した後もそれらは清潔に保管され続けたので、生まれたての私が着た祖母お手製の産着やおむつを私の子どもも身につける機会にめぐまれました。その時は心がジーンとしました。祖母に我が子を抱いてもらっているかのように思えたことも大切な思い出です。母も針仕事が大好きで、作品を作りためては数年に一度、個展を開きます。そんな影響もあってか、私も昔から料理やお裁縫が何とも言えず好きで、小学校時代、お裁縫道具を手にするだけで温かい空気に包まれているような、幸せな気持ちになったことをよく覚えています。

ご縁があって私は現在、5年生の子どもたちに家庭科を教えています。みんな家庭科の授業を楽しみにしているようで、始業前から私を廊下で待ち構えては「先生、つぎ家庭科やんな!」と期待を言葉にしたり、男子がグループになってお裁縫をしながら「これ、意外に熱中するな。なんかはまるわ。楽しいなあ。」などと思わず笑顔になるような会話を耳にします。苦手な食材を使う調理実習でも、わくわくしている様子で、素敵なお父さん、お母さんになる芽を感じ取る事ができます。大切なその芽を育むことに関わらせていただける事が本当にありがたく、感謝せずにはいられません。

家庭科で身につけた技術は将来の生きる力になると共に、子どもたちの心身をつくる事はもちろん、ものの見方や考え方までにも影響してくると思います。忍耐力をもち、前向きに生きるためにも、未来の自分を大切にするために衣食住を重んじることが大切であると言うこと、そして体によくおいしいものを楽しくいただくゆとりや上質の感性を家庭生活を通じてはぐくむということをこれからも伝えつづけていきたいです。そして将来、子どもたちみんなが豊かな人生を生み出してくれることを心から願っています。

5 年担任 稲光千賀子