先週の公開授業の際に、洛星中学・高等学校の阿南校長先生が本校でご講演くださいました。
 阿南先生のご講演に耳を傾けていますといつの間にか、奥様の慈子夫人のことを思い出すのでした。難病で歩行困難になられた後、病院のベッドで寝たままの生活が始まりました。私の教師生活最初の教え子でもあった慈子さんを病室に見舞った時のことです。ローマ巡礼のおみやげにと買って来ました水色のロザリオを手のひらにのせてあげると、彼女はこんなことを言ったのです。

 “シスター 私は目が見えなくなりましたが、夢の中では色もついているのですよ。ベアトリスの声は6年生で習った時と同じようにはっきりとわかりますし、こうしてまだロザリオの祈りもできます。”

 大きな目をあけてまるでよく見えるかのように、手にしたロザリオを胸に抱きしめて、しかもやさしい笑顔で、そんなことを淡々と話すのです。私は彼女を勇気付け、慰め、励ますつもりで、病院にお見舞いに来たのですが、涙ばかり出て言葉をなくしてしまいました。

 小学校・女学院時代はスポーツが得意だった彼女が、若くしてこのような病気になるとは想像も出来ないことでしたから、周りの者は同情したり激励したりしていましたが、慈子さん自身は何ひとつ不平をもらすことなく、却って、すべてを“神様のなせるわざ”と優しい心で受け止めておられたのです。

 病気が重くなるに従ってご自身の内面は、見えない世界にますます豊かに色づいて行かれたように思えます。最期はきっとマリアさまのお迎えがあったのではないでしょうか。今は天使たちと一緒に私達を見守って下さっていることでしょう。

  シスターベアトリス田中範子