「美術展」の看板にそっと挨拶のお辞儀をして、ぴたりと閉じられた扉をあけると、おもわず子どもたちから、歓声とため息が交互に飛び交います、「先生、早く入ろう!」。担当している1年生の子どもたちは、初めての全校美術展のスケールの大きさに、びっくりするものの、直ぐに、子どもたち自身が創り出した作品の世界へ入り込んでしまいます。子どもたちは、おもいおもいに友だちの作品を楽しみ、上の学年の先輩たちの作品のすごさに感心し、こんなの作りたいとつぶやいたり、まじまじと自分の作品を見つめて、もう一人の自分に出会ったりしているようにも見えます。そんな子どもたちの姿を見ていると、前の日までの準備の苦労も疲れも吹っ飛んでしまいます。

 実は、毎年美術展を迎える前に各学年の図工を担当する専科の先生たちは、子どもたちの個々の作品をクラスや学年としての集合作品として構成を考え、会場となるNDホールを各学年の作品が一番映えるように掲示の形態をどのようにするか頭を悩ませます。さて、美術展を迎える2日前になると、子どもたちが下校をしてひっそりとしたホールは、4時過ぎから、笑い声、掛け声、様々な声が行き交って、大賑わいです。学校中の先生が集まり、準備が始まります。子どもたちひとりにつき後期に創作した2作品を出品します。2000点近くの作品を、学年のブロックごとに掲示していくのですが、ひとりひとりの作品の名前の点検はもちろん、作品が映えるよう、丁寧に、壊れないよう、細心の注意を払って作業を進めます。「もっと、左、いやいや、もっと右。」「ライオンが熊を食べてるように見えるぞ。もっと、上、上。」作品を運び込み、バランスを考え、吊るしたり、張ったり、とめたり、置いたり、・・・。全ての作品が収まるべきところに収まると、今まではしゃいでいた(子どもたちの作品に向き合うと先生たちはなぜか楽しくなるのです。)先生たちは、そっと静かになります。子どもたちの作品が声を出して先生たちに話し始めるからです。

 作品を見届けて、しばらく静かなときがたち、NDホールの扉が閉まります。明日、子どもたちの歓声が聞こえる朝まで。

1年担任 寺島智恵