シリーズ第四回目でお伝えしたコーディネーション能力の七つの要素を短い言葉で表現すれば,①バランス能力,②リズム能力,③変換能力,④反応能力,⑤連結能力,⑥定位能力,⑦識別能力と置き換えることができます.この七つの能力の複合が,一般的に「運動神経」と呼ばれるものです.このように神経系トレーニングであるコーディネーション能力を磨く年齢は8~12歳(ゴールデンエージ)を中心に,5,6~14,15歳のジュニア期に重点的に取り組むことが大切といわれています.それはこの時期に脳の神経細胞が大人とほぼ同じ状態になるからです.

 ところで,筋力や持久力などの体力は,トレーニングを休んでしまうと能力も低下することが多いのに対し,「動き」の素であるコーディネーション能力は,時間がたっても衰えることはありません.その秘密は脳にあります.さまざまな動きをしているときの感覚は脳に神経回路が作られて記憶されるからです.

 私事になりますが,小学生,中学生のころ、体育の時間にあれこれ「スポーツ」と呼ばれる運動について指導された経験はほとんど記憶に残っておりません.今振り返ってみますと,季節による友達との遊び(ビー玉,メンコ,けん玉,竹馬,木登り,輪回し,ブランコ,釘刺し,そり遊び,石投げ,人間馬崩し,缶蹴り,かくれんぼなど)や家庭の手伝い(薪拾い,田や畑の土起こし・土運び,草引き,草刈り,車引きなど)の中でいろんな動きを自然に身につけていったのではないかと思います.その中でも,無我夢中で山や藪を駆け巡ったり,川や池で遊んだことが,最も運動神経を鍛える「源」であった気がします.

 コーディネーション能力は幅広く多様な動きのトレーニングを実践することによって,運動を行う回路がより精密に作られます.いつもの運動をコーディネーション能力のトレーニングに変える簡単な工夫のポイントは次の①~⑤にあります.

①     両側性(前後,左右,上下→前に進んだら次は後ろ,右でできたら次は左というように)
②     複合性(運動の組み合わせ→足の運動に手の運動を加えるなど,複数の動きを組み合わせる)
③     対応性(条件の変化→テニスボールを使った運動をバレーボールで行ってみる)
④     不規則性(脱マンネリ運動→合図を変えたり,フェイントしたり,意外性のある動きを意識して取り入れる)
⑤     変化度(レベルアップ→一つの運動ができたら,少しずつ難易度を上げて次に挑戦)

 小学生のうちに身につけて欲しいことは,正しい動きのフォーム作りに重点を置くことです.体の何処にどれくらい力を入れれば,体をコントロールすることができるか.その感覚を身に付けることです.特に歩き,走りのフォームは,スポーツ選手の身体能力,運動能力の指標といわれています.また,運動神経を高めるための方法で大切なことは,練習の回数や時間を設定することで決められないということです.つまり,動きが1回上手に(正確に)できるまで練習するということになります.(練習をくり返すこと.練習の目的を考えること.うまくいかなかったら休みを取り入れること.うまくいったら続けること)

 本校では,このコーディネーション能力を身に付けるため,あらゆる教育活動を活用し取り組んでおります.体育授業においても「動きづくり運動」を必ず取り入れ,学年に応じて授業を進めております.その一部を次に紹介し,脳の神経回路と運動のかかわりについてのシリーズを終わります.

・折り返しリレーのいろいろ(走りの中にケンケン,回転,動物歩き,人間トンネル,ドリブル,パス,曲線などを加えて行う)
・ロープを使ったジグザグ走のいろいろ(片足,両足,180度回転,360度回転を取り入れて行う),ロープ登り
・飛行機飛ばし,お尻歩き(前後,左右),背中歩き,雑巾投げ(足や手で),雑巾がけ競争,人間運び,連続人間馬跳び,肋木遊び,同側型動作(なんば歩き),変形スキップ(股関節から脚を出す,手を大きく振って,回転して),変形ダッシュ(合図を変えて,さまざまな姿勢から)
・水中での動き作り(さまざまな歩行,走,ジャンプ)など。


指導主事 三笠 正治