校内音楽会を間近に控えたある日、マリアンホールで昼食をとっていると、2年生の担任の先生がクラス委員二人を連れて私のところにやってきました。
 何やら神妙に控えているその二人は、担任の先生にやさしく促されて私の前で直立不動の姿勢になり、二人で顔を見合わせてイチニのサンで息を吸ったかと思うと「今日は歌の練習のときにすみませんでした・・・次から、ちゃんと歌うので、あの歌を歌わせてください・・・」と、語尾がしり上がりになる話し方ながらも、しっかりと声を揃えて私に詫びを言いに来たのでした。
 数時間前・・・音楽室では音楽会に向けて2年生某クラスの歌の練習をする熱い姿!がありました。しかし、このクラス、いつもノリが良すぎて度が過ぎることしばしば・・・。この日も数名がおふざけムードになってきて歌詞の語尾を、「ともだちのおーォウ」とか「ともだちはーゥヮア」とかやり始めると、つい真似してみたくなるのが子どもの常、いつの間にやらあちこちで「~うわァオウ」とか「~うをゥォウ」だとか、たいへんな騒ぎになってきました。そこで、私はとびきり悲しい顔をして「先生は、そんな歌い方は好きじゃありません。普通に歌ってください!」と子どもたちにお願いをすることにしました。ところが、反骨・反逆の魂をむき出しにするのはロックンローラーの性でしょうか、ハイテンションの子どもたち、もうどうにも止まりません。ついに私は子どもたちに向かって最後の奥の手でボソッと一言・・・「君たちのクラスには、この歌は歌わせないことにします! 他のクラスにだけ歌ってもらいますから、そのつもりで。どうしても歌いたい人は口だけ動かすように、いいですね!」 もちろん、最後の「いいですね!」のところは、顔の前で指を立ててカッコ良く決めた・・・つもりですが・・・その瞬間!ライヴの興奮冷めやらぬ音楽室がシーンと静まり返って、何とも言えない緊張感が充満してきました。そこに、天からの救いの声のような授業時間の終わりを告げるチャイムの音が・・・。音楽室を出てしゅんとうなだれて教室に帰る子どもたちの後ろ姿には、いつも子どもたちの背中に投げかける「きちんと並んで静かに帰りなさい!」の声も必要ありませんでした。
 先の昼食時の出来事は、この授業の光景の後のことです。
 体育会系担任の先生曰く、「職員室から教室に戻ってみると、音楽室から帰ってきた子どもたちが大声でボロボロ泣いているので、びっくりしてその訳を訊いてみると、『音楽の時間にふざけすぎて先生に叱られ、自分たちの一番好きな歌が音楽会で歌えなくなってしまった・・・』ということでした。それじゃあ、後で音楽の先生のところに謝りに行って、今度はきちんと歌いますからその歌を歌わせて下さいとお願いしよう、という訳で、クラスを代表して二人を連れてきました。いやぁ、あんなにギャアギャア泣くのを見るのは、6年生のお別れ会のあとの1年生を見たとき以来でしょうか・・・」と、笑いながらお話くださいました。
 担任の先生からそのようなお話を聞き、私は胸にジーンときてしまいました。
 実は、この歌、「ともだちロックンロール」という拙作で、2年生が過日の音楽会のステージでノリノリで歌って、曲の最後に「イェイ!」と決めた歌です。
 可愛いロックンローラーたちの涙は、次の音楽の時間には満面の笑みに変わり、さらに喜び溢れる元気いっぱいの歌声(魂の叫び!?)となったことは言うまでもありません。
 ステージの上で曲の最後にジャンプしながら決めた瞬間は、永遠のストップモーションとして何十年経っても私の心の中に焼きついていることでしょう。「イェイ!」

音楽科 寺下 徹