人間の動きをすべてコントロールしているのは脳です.その指令は脳の中で神経細胞(ニューロン)から神経細胞(ニューロン)へとシナプスを介して,電気信号が送られ,神経回路と呼ばれる神経パターンが形成されます.脳から脊髄,神経を通った電気信号は,筋肉に伝えられ,身体を動かすことができるのです.筋肉には記憶システムがないので,筋肉は脳の指令のままに動くのみになります.運動が上達したわけは,繰り返しの練習によって,うまくなったよという神経パターン(神経回路)が脳に記憶されたということになります.
 さて,人の脳には1000億もの神経細胞(ニューロン)が存在するといわれています.一言で言えば脳は神経細胞のかたまりであるといっても過言ではありません.歩く,走る,跳ぶ動作が6歳ごろにはその80%,12歳ごろには大人にほぼ近い神経細胞の形成がなされていると言われています.ということは,この時期に,脳の神経の中に,あらゆる運動の基礎になる神経パターンをたくさんつくることが運動センスのよい,運動がうまい人を作れる可能性が高くなるということです.運動刺激を与えることによって神経回路を構築することは可能であり,基本の動作は身につけられるということになります.
 では,幼児期,児童期にはどんな運動刺激が脳の神経回路の構造を変えていくのでしょうか.
運動能力には,筋力,柔軟性,スタミナ(持久力),スピード,パワー,コーディネーションなどが挙げられます.コーディネーションは運動能力の筋力,柔軟性,スタミナ(持久力),スピード,パワーをうまく調整し,体の動きをコントロールする能力といえます.最近注目されている能力で,全ての人にとって大切な能力といわれています.
 この体の動きをコントロールする能力にはつぎの七つの要素があります.
① 何かにつまずいて転びそうになったり,押されてよろけたりしたときなど,うまくバランスを保ち,体勢を立て直すことができる能力②感覚器官で感じたことや頭でイメージした動きのリズムを身体で表現する能力③まっすぐ進むはずだったのに急に向きを変えなければならないなど,急に状況が変わったときでも,その変化した条件に合わせた動作を機敏に切り替えることができる能力④日常の生活では信号の光や音の合図,スポーツではスタート音やコーチの支持の合図など,一つまたは複数の情報を素早く察知して,目的に合った行動を行う能力⑤身体の各部分の筋肉や関節を,力加減やスピードを調節して無駄なく動かす能力⑥常に動いているものとの関係を認知します.空間と移動しているボールや味方や相手の選手などと自分の動きとを関連づけて調節する能力⑦ボールやラケット,自転車のハンドルなどの用具操作を,精密に行う能力 
 では,上述した動きが具体的にどんなものか,どのような時期に運動刺激として脳に与えればよいのかを幼児期,児童期という年齢に絞って,「どんな運動が良い神経回路をつくるのか」シリーズ⑤でお伝えしたいと思います.

参考資料.文献
1) 体育科教育2011.3(P.16~19,24~27)
2) 運動神経の科学 小林寛道著 講談社
3) もっともっと運動能力がつく魔法の方法  東根明人,宮下桂治共著 主婦と生活社
4) 子どもの運動能力を引き出す方法  佐藤雅弘著  講談社
5) 「運脳神経」のつくり方  深代千之著  ラウンドフラット社
6) 脳科学の教科書(神経編)  理化学研究所脳科学総合研究センター  岩波書店

指導主事 三笠 正治