研究と実践-体育科部

「日本私立小学校連合会 全国教員夏季研修会」

2011年8月17日~19日に、日本私立小学校連合会全国教員夏季研修会が行われました。

「ハードル技術においての抜き足の技術指導の提案」という題目で発表しました。今回は、その発表内容をまとめ紹介します

 

研究動機・目的

 小学校に限らず中学校、高校でのハードル技術指導の現場では、股関節を 90 度横に開き、膝を 90 度に曲げる、足首を 90 度にすると指導されることが多いです。ハードルを越えるときは、膝を地面と水平となるまで引き上げると 指導されます。私自身も小学生の頃そのように指導されました。指導する教師側からすれば、股関節を 90 度に開くだけ、という動作は簡単に思うかもしれませんが、体が柔らかくないと非常に難しく安易なことではないです。

この横に股関節を開くという動作は、次のような欠点があります。走る速度が上がれば上がるほど、ハードルを越える際にディプス(前傾姿勢)は大きくなります。ディプス(前傾姿勢)をすればするほど膝から下腿が下がりやすくなり、抜き足がハードルを越える際にぶつけやすくなります。それを回避するには高く跳び上がる、もしくは、開いた股関節を下がらないようにさらに大きく引き上げなければならません。そうすると、ハードルを越える際の技術というものが更に難しくなります。この動作はハードル上級者であっても柔軟性が必要となりとても難しいことです。また動作は将来的な伸びの障害となるとの報告もされています。

 逆に縦抜きというのは、まっすぐ太ももを引き上げ、体幹(上半身)に対して平行にする足の動かし方です。この動作は最終的には膝を斜め 45 度程度(脇の下に膝をもってくる)に膝を持ち上げることを最終目標とします。イメージしやすくすると、脇に膝を抱え込む形となります。指導の際は、最初はまっすぐ引き上げることを意識し、上達し、身についた時に新たな課題として示す際に、斜め 45 度に引き上げるということを行うことでよりスムーズなハードルへ導くことができるようになります。一見ディプス(前傾姿勢)をしない状態で行なうとハードルに対して高く飛び上がらなければハードルを越えられないように見えるます。しかし、ハードル上級者になりディプス(前傾姿勢)が深くなればなるほど、引き上げられた膝は体に沿うように寝てくるので、引き上げた足が地面と平行となりスムーズにハードルが越えられるようになります。横抜きのハードルに対して縦抜きのハードル技術は少ない工程で指導が行える点と将来の基礎作りの観点から小学生に向いているのではないかと考えたことが今回の研究動機となりました。

 

  【目的】

 小学生のハードル走において、中学年の、「小型ハードルを調子よく走り越えること」および高学年の、「ハードルをリズミカルに走り越えること」をハードルの抜き足の技術を簡易化する工夫によって目標達成すること」。

 

【方法】

 1、研究対象児童はハードル走経験がほとんどない小学4年生の 81

(男子 35 名女子 46 名)

2、先行研究としてハードル経験がほとんどない昨年度の小学5年生、6年生の児童

159 名(男子 71 名女子 88 名)

3、 50 mの距離にハードルを 5 台置く。

4、高さは 50 cmとする

1台目までを 13 m 2台目以降を、6m・ 6.5 m・7mと3種類コースを作成し、児童が走りやすい場所を選択させる。練習過程で各場所のタイム計測を行い、最終的なコースを決める。

今年度授業の流れ(計8時間)

 1 限目 ハードルを 1 台越える練習(指導無し)

2限目  50 mH タイム計測

3限目 踏み切り足の確認・抜き足の練習

4限目 上半身の使い方・インターバル間の練習(ミニハードル)

5限目 ハードルの大会の様子をテレビで見る

6限目  50 mH 3種計測(6m・ 6.5 m・7m)

7限目  50 m計測・インターバル間、ハードル練習

8限目  50 mH 計測

 

【集計方法】

アンケートを行った結果、抜き足の技術については、約 95 %の児童がこちらの意図した練習方法を理解したと考えられる結果となりました。また、自分なりにできたかという問いに対しては、 84 %の児童が上手にできた、まあまあ上手にできたと答えました。

また、ハードル走に慣れたと答えた児童が 85 %で、抜き足が上手にできた 84 %となりました。結果として、ハードルの抜き足が上手に出来たと感じた児童とハードルに慣れたと答えた児童がほぼ同じになりました。このことからハードルに対して上手に出来た、出来なかったという自己評価の部分は、ハードルの抜き足と結びついていることがわかりました。ハードル走における児童の個人的な自己評価の満足度は抜き足と結びついていることが示唆されたといえます。このことから、ハードル走において抜き足の技術の大切さが伺えました。

技術が向上すれば、楽しくなる、ということもこの授業のアンケートから知ることが出来ました。逆に私が小学生の頃に言われた「上手に出来る人の真似をしましょう。」、といわれるだけの授業の場合は、どうすれば上手に出来るのかという解決の糸口が最後まで見つからず、抜き足が上手に出来なくて、そのまま「苦手」となってしまうこともあると思います。

先に述べたように、抜き足が満足にできればハードルに対しても良いイメージが出来ます。現時点では、縦抜きのフォームを教えることによって記録が大幅に上がることは見られませんでした。しかしこの指導によって縦に抜くフォームがほぼすべての児童に身につきました。将来的にはしっかりとディプス(前傾姿勢)し、適切なフォームに導くことが出来る基礎が、今回の授業で出来たといえます。また、夏の発表後の9月に神奈川県の小学校の先生から早速この取り組みを行ったという連絡を頂きました。その先生が少しアレンジし4年生から6年生の児童に授業で行ったところ、すぐにフォームが定着したという連絡を頂きました。

しっかりと抜き足の指導を行うことが児童の満足度を引き上げ、ハードルに対して苦手意識を持たせない取り組みといえます。今後も様々な先生方と共に研究を深め取り組みたいと思います。

 

体育部 中藪 大意樹