近畿地方にも大きな被害をもたらした先日の台風12号でしたが、激しい風と雨が通り過ぎた後には、台風がまるで一気に暑気払いでもしてくれたように突然の肌寒い朝・・・見上げた空には、秋の名物?「巻積雲(けんせきうん)」が、朝陽に美しく輝いていました。「いわし雲」とか「うろこ雲」などとも呼ばれていますが、形が崩れるのも早く、その美しい姿をいつまでも見ることはできない儚さ(はかなさ)が、どこか郷愁を誘います。

 不可抗力とはいえ、大地震や大きな嵐の前に、人間は本当に無力です。かけがえのない肉親を失ったり、住む家を失くしたり、住み慣れた故郷を追われたり・・・人は大きな犠牲を払ったとき、昨日まで平和に共存していたはずの美しい自然が、突然人間に牙をむいて襲い掛かってくるその猛威を恐れ、憎み、「なぜ私たちが・・・」と天を仰ぎます。

ようやくに涙も涸れ、行き場のない怒りが治まるとき、答えが出るはずもないこの問いかけに対して、自然は無言で私たちに時の移ろいを与え、季節を感じさせてくれます。

それは、慈愛にみちた神のやさしさでもあり、また淡々とした神の摂理そのものでもあります。(つまり、この瞬間にも大宇宙のなかで地球は回っているということですが・・・)

どんなに苦しくても、どんなに悲しくても、そしてどんなにつらくても時計の針は休まず動き、夜は必ず明けて朝が来ます。確かな季節の移ろいを感じるとき、「それでも生きなさい・・・あなたに与えた命を自然の恵みとともに美しく生き抜きなさい・・・」とささやく声が聞こえてくるようです。あのうろこ雲の一瞬の美しさを見、そして消え行く様を私は見送ることができたのですから・・・     

(1年副担任・音楽科 寺下 徹)